物価高騰給付金について:介護事業者向け給付が行き届かない理由とは?
物価の高騰が続く中、介護サービス事業者の方は、経営が大変苦しい状態に直面しています。
ご存じのとおり人員不足と相まって、介護事業所の閉鎖数が増加しています。
「地域で必要とされているサービスの提供を続けたい」という思いを持ちながら事業所を運営している中で、経営に関するコストが上昇していることに頭を抱えておられる経営者の方は多いと思います。
そんな中、物価高騰への支援のための給付金が、介護事業者にも提供されていることをご存知でしょうか。
地方自治体や厚労省のホームページを調べるのも面倒なので知らない方も多いでしょう。
本記事では、介護事業者を含めた企業や事業者への物価高騰支援がどうなっているのか、給付金概要や対象者、申請方法について解説します。
※この記事は2024年8月時点の情報です。
※記事の公開時点で給付金の受付期間が終了している自治体もあります。
※この記事は法人向けの記事となります。個人対象であればこちらの記事をご参照ください。
►介護業界の皆様必読「物価高騰給付金」令和6年の最新状況
目次
1.物価高騰給付金とは?
2.電力・ガス・食料品等価格高騰重点支援地方交付金の対象経費
3.令和6年物価高騰給付金、その具体例
4.物価高騰支援が行き渡らない理由
5.まとめ
1.物価高騰給付金とは?
パンデミックの影響によるサプライチェーンの混乱から始まり、相場・円安の進行により輸入コストが増大し、エネルギー価格上昇等、複合的に要因が絡まって、物価は上昇し続けています。
これらの物価高騰の手当のために国が支給する給付金は総じて「物価高騰給付金」と呼ばれています。
代表的なものは、令和5年度にあった”令和6年度に対象世帯に限り一世帯あたり10万円支給する”という物価高等給付金でした。また、対象でない一般サラリーマン世帯にも、定額減税を行い、一人あたり合計4万円(所得税から3万円、住民税から1万円)の税負担を減らしました。
実際に効果があったのかどうかは別として、これらの狙いは消費者である国民を直接支援し、生活上の経済的負担を直接和らげるというものでした。
しかし、物価の高騰に悩んでいるのは一般の消費者だけではありません。通常の企業もエネルギー価格の高騰や仕入れの価格の高騰には苦しんでいます。
これらの企業向けの物価高と給付金については、一般向けの物価高等給付金とは違い、大きく報道されていないのであまり知られていません。
しかし、「電力・ガス・食料品等価格高騰重点支援地方交付金」という名称で令和5年3月に政府が予算化しています。
出典資料:【事務連絡】「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金(重点交付金)の増額・強化について P1」より引用
(内閣府地方創生推進室令和5年3月22日別添資料1)
支援内容は生活者支援と事業者支援の2つのメニューに分かれています。
・医療・介護事業者への物価高騰支援
この支援メニューをもう少し詳しく解説したのが次の図です。
出典資料:【事務連絡】「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金(重点交付金)の増額・強化について P2」より引用
(内閣府地方創生推進室令和5年3月22日別添1)
事業者支援の5番で「医療・介護・保育施設、学校施設、公衆浴場等に対する物価高騰対策支援」というものを明確に位置づけています。
では具体的に令和5年の3月以降、病院や介護福祉施設への物価高騰支援が行き渡っていると言えるでしょうか。
実際に支援メニューの予算を策定したのは政府ですが、この事業支援を実際に行うのは地方自治体です。
上の図にも小さく書いてありますが、「地方公共団体が運営する公営企業や直接住民の役に立つ施設を使ってもいい」等の記述があります。
この交付金をどのように活用して地域の支援に結びつけるかについては、最終的には地方自治体が決めて実施するという形になっています。
施策を実行する地方自治体の方も、国が予算を確保してくれたとしても、議会でその予算を計上して、承認されなければ実行に移せないという事情があります。
ですから政府が予算化したと言っても、実際にその給付金が支援として支給されるまでにどうしてもタイムラグが出てしまう事情はあります。
言葉を変えて言えば、国が物価高騰のための手当の予算を編成したとしても、各地方自治体が積極的に動かなければ、国の給付金もなかなか介護事業者の手元に降りてはきません。
・物価高騰給付金の遅れが目立つ
前段のような事情があるとしても、介護事業所の閉鎖が相次ぐ中、”あまりにも給付金の支給が遅い”という意見が相次いだことで、介護業界の団体が立ち上がっています。
公益社団法人全国老人福祉施設協議会、公益社団法人全国老人保健施設協会、公益社団法人日本認知症グループホーム協会の3つの介護業界を代表する公益団体が、令和5年4月に、全ての自治体へ連名の要望書を提出しています。
要望の内容は、「重点交付金の積極的な活用を検討して、高齢者福祉・介護施設等への緊急的な支援を早めて欲しい」というものです。
具体的には、都道府県47か所・市区町村1,741か所へ連名要望書を郵送し、あわせて各団体の都道府県組織が、各地方自治体へ直接働きかけをするように依頼をしています。
自治体内の担当部局に直接出向いて行政担当者へ要望・説明をしたり、地方議会へ議会請願したり、有力地方議員への要請等の具体的なアクションで、陳情に使うフォーマットや文書類まで用意しています。
参考資料:公益社団法人全国老人保健施設協会ホームページ
https://www.roushikyo.or.jp
※新着お知らせページ/掲載・更新日:令和5年5月2日
このような公益団体が全国的な活動を呼びかけるのは、地域のインフラとなっている高齢者福祉施設介護施設の経営が、いかに苦しいかということの裏返しだと思います。
2.電力・ガス・食料品等価格高騰重点支援地方交付金の対象経費
では「電力・ガス・食料品等価格高騰重点支援地方交付金」の対象となる経費については、どのようなものがあるのでしょうか。代表的な対象経費は以下のようなものです。
- ・光熱費:事業所が負担する光熱費
- ・燃料費:サービス提供に使用する法人所有車両に係る燃料費
- ・食費:食費などの物価高騰による上昇分
これらの経費は、物価高騰の影響を直接受けており、事業活動に支障をきたす可能性があるため、支援金の対象とされています。
しかし、具体的に対象経費をどの範囲までにするか、どのような形で給付するかは、自治体によって大きく異なります。詳細は各自治体の支援内容を確認することが重要です。
3.令和6年物価高騰給付金、その具体例
インターネットで調査ができたごく一部の自治体の例をご紹介します。
地域によって給付金の名称や、給付支援の金額ややり方内容などが全くバラバラであることが分かります。ご参考としてご覧いただければ幸いです。
ご自身の事業所がある地方自治体の事情については、他の自治体に居住している筆者よりもお読みになられておられる方の方がお詳しいかもしれません。是非ご自分の所属する自治体の関連WEBページをよくご覧になってください。
・【例1】東京都
東京都では、「介護サービス事業所等物価高騰緊急対策事業」として、通所・訪問系介護サービス事業所の送迎サービス等に要した燃料費(ガソリン代及び軽油)を支援することを目的として、「介護サービス事業所等物価高騰緊急対策事業」を実施しました。こちらは通所系介護サービスの場合一台あたり月額1,700円、訪問系介護サービス一台あたり月額900円の支援になります。
施設系サービスを支援することを目的として、「特別養護老人ホーム等物価高騰緊急対策支援金」も給付しています。こちらは利用者1日あたりの金額一律の配布給付になります。食費と光熱費を1ヶ月30日として計算すると1人当たり月額3840円の支援になります。
これは令和5年の下半期分の予算でこちらの申込期限は令和6年2月22日(木曜日)18時で受付終了しています。
詳細は以下の東京都福祉局のホームページでご確認ください。
https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/index.html
・【例2】文京区
サービスの質の低下や経営の悪化を防止、利用者負担の増加抑制を目的として、区内事業所に対し、食材費及び光熱費等の高騰に伴う支援を行っています。こちらは対象の経費をあえて限定せず、入所系施設、通所系、訪問入浴介護というサービスごとに事業所単位で給付の金額を決めています。例えば入所系施設の場合は1事業所当たり6万4千円に定員数を乗じた額が給付額になります。
こちらは令和6年4月から令和6年9月分とありますので、令和6年度の予算だと思われます。残念ながら令和6年4月から9月分は令和6年6月28日(金曜日)が申請締切で既に終了しています。
詳細は文京区のホームページでご確認ください
https://www.city.bunkyo.lg.jp/index.html
・【例3】神奈川県
神奈川県では、「神奈川県高齢者施設等物価高騰対応支援金支給(介護分)」という名称で、県内(横浜市、川崎市、相模原市、横須賀市を除く)に所在する高齢者施設・介護サービス事業所を支援を行いました。
光熱費、燃料費又は食材費の高騰分を支援する形で、給付額の用途を決めずサービス種別毎に事業所単位での支援になります。
※「令和6年度神奈川県高齢者施設等物価高騰対応支援金支給(介護分)」事業の申請手続き等について(通知)の3.支給額より表を抜粋
令和6年7月25日(木)から令和6年8月30日(金)まで申込期間が1ヶ月と短かったため、筆者の所感としては、予め知らないと申請が出せなかったのではないかと思われます。
詳細は介護情報かながわのページをご確認ください。
https://kaigo.rakuraku.or.jp/search-library/lower-3-3.html?id=1145&topid=28
・【例4】横須賀市
横須賀市では、「令和6年度福祉事業所等に対する物価高騰対策緊急支援事業費補助金(介護分)」として、安定した福祉サービスの提供を図るため、介護保険サービス事業所及び施設への支援等を昨年度に引き続き行っています。
こちらでも細かい用途毎の経費申請はなく、訪問型サービス、通所系サービス、施設系サービスというサービス系列ごとに基準額を設定し、事業所数及び定員数を乗じて法人単位で算定します。
令和6年7月1日(月曜日)~7月31日(水曜日)で申請は既に終了しています。こちらも申請期間が1ヶ月と短かかったため、予め知らないと申請が出せないのではないかと思われました。
詳細は横須賀市のホームページでご確認ください。
https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/2640/bukkakoutouhojokinkaigo.html
・【例5】福岡市
福岡市では、市内中⼩企業者等(個⼈事業者含む)の事業継続と雇⽤の維持を⽬的として、燃料費及び光熱費について、価格⾼騰分の⼀部について60万円を上限として支援金額を支給しています。
支援金の対象となる経費は、令和5年10⽉から令和6年4⽉までに事業の用に供するために使用した電気、ガス、ガソリンなどの経費です。対象となる事業者も、高齢者福祉施設、介護サービス事業所、障がい者支援施設、障がい福祉サービス事業所をはじめとして、大企業から個人事業主、また公益法人まで支援する幅広い内容になっています。
こちらは判りやすくポータルサイトがあります。
詳細はこちらをご覧ください。
https://fukuokacity-nenryoukoutoushien.jp/
4.物価高騰支援が行き渡らない理由
インターネットで公開されているごく一部の自治体の例を調べてみましたが、支援の内容や時期、給付金の算定方法等も大きく異なることが判ります。
物価高騰の支援金が、十分に行き渡らない理由は4点考えられます。
- ・情報の分散
- ・周知不足
- ・手続きの煩雑さ
- ・申請期間が限定的
一つずつ解説します。
①情報の分散
給付金支援に関する情報がバラバラでわかりにくいということが挙げられます。
具体的には厚労省から各地方自治体に対しては、文書による周知を行っているわけですが、それだけでは非常にわかりにくい。支援策に関する情報は、省庁のウェブサイトにあることはあるのですが、分散していたり探しにくいため、自治体の関係者が必要な情報を見つけるのに時間がかかっています。
どこを見たら正確な情報があるのか、地方自治体で人員が少ないところでは、十分な情報を集められないという事情があるではないかと思われます。
その結果、自治体によって、給付金の支援が遅かったり、支援の内容が薄かったり自治体によって差が出てきてしまうわけです。
実際、公益社団法人全国老人福祉施設協議会も、厚生労働省に対して交付金の周知とバラツキの是正を要望としてあげています。
②周知不足
厚労省の発する文書やホームページが分かりにくいのであれば、せめて業界団体や関連団体などが周知してくれれば良いのですが、この周知活動というのがファックスや窓口の担当者へのメールという形にとどまっており、この連絡ルートから外れたところには情報自体が回ってきません。
インターネット上での公開やSNSを活用した広報が十分に行われていないため、特に中小規模の事業者や新規参入者にとって、支援策の存在自体を知る機会が少なくなってしまっています。
③手続きの煩雑さ
仮に給付金情報を知って、支援の内容が理解できたとしても、支援のための申請手続きが非常に煩雑で申請書類を期限内に作成するということができないことも挙げられます。
特に苦労して書類を作って給付金の額が相対的に低いのであれば、その書類を作るための時間がもったいないということになります。
申請書類を簡素化したり、電子化でいつでも申請できるようにするなど、手続きそのものが申請の心理的なバリアにならないようにしていただきたいところです。
④申請期間が限定的
各地方自治体の支援金申請の受付期間を見ると、1ヶ月前後のところが多いです。
人手不足の中、平常の介護業務を行いながら申請書類を作るわけですから、予め支援金の情報を知っていない限り、期限内に書類を準備して申請をするためにはかなり無理をしなくてはいけません。
給付金の存在に気付いた時には、もう受付期間が終わっていたということも、多いのではないでしょうか。
この場合、次の受付期間まで待つしかないわけですが、このような社会情勢であれば、給付金はいつ申請しても要件を満たしていれば申請が受理されるというのが本来の「支援」ではないかなと思います。
5.まとめ
介護事業所に対する物価高騰給付金の状況がどのようなものか一部の例を具体的に見てきました。
このように見てきますと、実際に支援が行われる自治体によって給付や支援の内容・やり方が本当にバラバラだということがよくわかります。
しかし、介護サービスというのは社会インフラでもあります。
国民が必要としている”介護サービス”を安定的に地域で運営できるようにするためには、国が予算取りしたものは、直接介護サービス事業者に対して入金できるような方法を考えるべきではないでしょうか。
各介護事業所の場合、介護保険請求や返金の手続きが確立されており、口座や連絡先も分かっているので、実施しようと思えば可能なはずです。
その方が自治体を通して支給するよりもよほど効率的に給付が進みますし、自治体の方も予算措置や事務手続きなどを省けて有難いのではないでしょうか。
物価高騰が進む中、人件費は上昇し続けており、労働人口の減少による人手不足で介護事業所を閉鎖せざるを得ないという状況に追い込まれている介護事業者は増えています。政府には引き続き物価高騰給付金の予算化を期待したいところです。
今回の申請期限が終わっていても、情報が更新される可能性があります。介護事業者の方は、自治体のホームページを定期的にチェックすることをお薦めします。
著者プロフィール
上尾 佳子 氏
合同会社ユー・ラボ 代表
WACA上級ウェブ解析士
愛知県出身
バブル期に大手通信企業に入社し、通信システムの法人営業を経験。
1990年代、インターネット検索ビジネスを手がける新規事業部に移り、ポータルサイト運営に関わる。以後20年間一貫して、データを活用したマーケティング支援に携わる。
2011年IoTスタートアップに合流、介護福祉用具カタログをデジタル化するアプリをきっかけに介護業界について知見を深め、2014年独立。
家族の遠隔介護をきっかけに、中小企業へのデータ活用したデジタルマーケティング支援を行うかたわら、介護サービス利用者家族という視点で情報発信を行っている。現在介護関係で2つのサービスを運営中。
・介護業界向けカタログアプリ「介護のカタログ」
・介護のDX化、ICT化について考えるサイト「介護運営TalkRoom」