ケアぽすコラム

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2023年10月25日

ケアマネジャーの役割とは?AIには決して代われない?その難しさの本質


今回はケアマネジャーの役割について深堀してみたいと思います。

ケアマネジャーのお仕事は、仕事の境界が非常に曖昧であるというような話を前回のコラムでご説明しました。
※前回のコラムはこちら「ケアマネジャーのお仕事:その実態とお悩み解決法」

この記事では、本来ケアマネジャーに求められる役割はどのような範囲なのか、そしてその役割がどのように変わってきているのかについて調べてみました。

ケアマネジャーの仕事や待遇は市区町村や地方自治体によって、かなり差があるので根拠資料はなるべく厚生労働省の資料に基づいて調べています。

ケアマネジャーの役割とは


よく聞く「ケアマネ」は略称です。ケアマネジャーを漢字で表記した名称は「介護支援専門員」です。

介護支援専門員は、国が定めた介護保険法の第7条の5において、「要介護者又は要支援者からの相談に応じる相談援助専門職」として定義されています。

介護保険法は日本全国で等しく守られるべき法律であり、この法律の下で、介護支援専門員(ケアマネジャー)はその仕事を行っています。

厚生労働省がケアマネジャーの役割をどのように認識しているかというと、平成28年の社会保障審議会の資料では、ケアマネジャーの定義を以下のようにまとめています。

  • 要介護者や要支援者からの相談に応じる
  • 要介護者や要支援者が心身の状況に応じた適切なサービスを受けられるよう、ケアプラン(介護サービス等の提供に関する計画)を作成する
  • ケアプランを実施するための市町村、サービス事業者、施設等との連絡調整を行う
  • 要介護者や要支援者が自立した日常生活を送るための援助に関する専門的知識・技術を有する
  • 介護支援専門員証の交付を受けている

また、同じ厚生労働省の資料によれば、ケアマネジャーという職種は、大きく分けて①居宅と、②施設の2つに区分されていると述べられています。

それでは、これら2つの区分について、詳しく見ていきましょう。

居宅と施設で異なるケアマネジャーの役割


・施設等におけるケアマネジャーの役割


施設等のサービスを利用している利用者様が、自立した日常生活を営むことができるように支援します。解決すべき課題の把握を行った上で、利用者様が入居している施設で、施設サービス計画に基づきサービスを提供します。

要介護者や要支援者が入居すると想定される施設:
  • 介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
  • 介護老人保健施設
  • 介護療養型医療施設
  • 特定施設入居者生活介護(介護付き有料老人ホーム等)
  • 認知症対応型共同生活介護
  • 小規模多機能型居宅介護

これらの施設にはケアマネジャーの配置が義務付けられています。
しかし施設の目的が異なれば、ケアマネジャーの役割も施設によって微妙に変わってきます。

小規模多機能や老健のケアマネジャーに求められる役割は、自宅で自立した生活という利用者様の希望に沿って自立のためのケアプランを作成することも多くなるでしょう。

対照的に、特別養護老人ホームのケアマネジャーの役割は、本人の自立に向けて残存する機能をどのように維持してゆくか、ということが中心になることが考えられます。また、看取りに対してもケアマネジャーはどのように対応するかを考慮する役割があります。

とはいえ、どちらのケースでも、ケアマネジャーが作成した施設サービス計画を実行する部署は、同じ施設内にいることが一般的です。

・居宅介護支援等におけるケアマネジャーの役割


これに対し、居宅介護支援や在宅介護のケアマネジャーの役割は、かなり多岐にわたります。

ケアマネジャーの役割の基本は、ケアプランを作成し実施することと、言うことは簡単ですが、作ったケアプランを了承するのは利用者様だけでなく、その家族でもあります。
利用者様の家族とのコミュニケーションや人間関係の構築が必要です。

また、在宅の場合、利用者様の住環境はそれぞれ異なります。
自宅には段差があり、廊下が狭いなど、普段の生活が営まれている場所では、病院や介護施設のように介護者にとって使いやすい形にはなっていません。

その自宅を利用者様が安心して暮らせるよう、住宅をどのように改造するかを考えるのもケアマネジャーの役割です。

さらに、利用者様の生活や心身の状況を鑑み、どのヘルパーや訪問看護を選ぶか、具体的に考え、調整するのもケアマネジャーの役割となります。
自分が策定したケアプランに沿って、適切にサービスを提供する介護事業所を探さなくてはなりません。地域のデイサービスや事業所が常時利用可能というわけではありません。利用可能な事業所を見つけるのもケアマネジャーの大事な役割です。


介護サービスの業務の流れ
出典:社会保障審議会介護保険部会(第57回)厚労省資料3ケアマネジメントのあり方 P2より 転載

この図はケアマネジャーの役割を施設と在宅で分けて図示しています。

ケアマネジャーの基本的な役割は同じですが、在宅介護の方が利用者様の環境の個別性が高く、外部との調整が難しいケースが増えます。

この点、施設におけるケアプランの作成から実施までは、1つの施設内で完結するため、外部との調整が少なく、スムーズに進むことが多いです。そのため、マネジメント上の負担も相対的に少なくなると考えられます。

ケアマネジメントの基本の流れ


施設と在宅の両方で求められる役割が異なると述べてきましたが、ここでケアマネジメントの基本の流れを振り返っておさらいしておきましょう。

ケアマネジメントの流れはこの図のとおりです。

社会保障審議会介護保険部会(第57回)参考資料3より加工転載


ケアマネジャーは利用者様の状況を評価し、ケアの目標を定めたケアプランを立てます。ケアプランの実施にあたっては地域の事業者と協力し、多職種と連携し、利用者様の同意を得た上でケアプランを決定します。このケアプランに基づきサービスを提供。その後、給付管理を行い、サービス提供の結果をモニタリングするという流れとなっています。

この図で非常に明確なのは、ケアマネジャーという職種と介護サービスを提供するサービス事業所が明確に分離されていることです。

ケアマネジャーは介護サービスを直接実行する役割ではなく、計画を立て、その計画の進行状況をモニタリングするというのが基本的な職務です。この点で、介護サービスを実行するヘルパーとケアマネジャーの役割とは大きく異なります。

サービス担当者会議というのは一般にはあまり耳慣れない言葉かもしれませんが、介護業界の用語では通称「サ担」とも呼ばれています。

サービス担当者会議におけるケアマネジャーの役割は、まずサービス提供のため、利用者様とその家族に提供される介護サービスの内容を説明し同意を得ること、そして利用者様の現状を事業者側と情報共有し、連絡体制を整えることです。

在宅のケアマネジャーにとっては、サービス提供開始時に行うべき重要なイベントです。

地域への権限移譲とケアマネジャーの役割


このような基本のサービスの流れが確立していましたが、2014(平成26)年の介護保険の改正で、ケアマネジャーの役割に大きな変化が起きました。

2014(平成26)年改正の大きなポイントの1つは、地域包括ケアシステムの構築に向けた地域支援事業の充実(在宅医療・介護連携、認知症施策の推進等)です。

地域包括ケアシステムを推進し、全国一律の介護保険事業を、各市区町村の実態に合わせたものにしていこうという趣旨の法改正です。これを実現しやすくするため、厚生労働省はこれまで都道府県が持っていた介護保険者としての権限を市区町村単位に移行するという決定をしました。

暫定的な移行期間を設け、平成30年より居宅介護事業所指定権限は、都道府県から市町村へ委譲されます。

社会保障審議会介護保険部会(第51回)厚労省資料の画像

2014(平成26)年改正で、どのようにケアマネジャーの役割が変わったのか、ポイントを見てゆきます。

・地域包括ケアシステムによって生まれたケアマネジャーの役割分担


地域包括ケアシステムとは、高齢者が要介護状態になっても、できるだけ住み慣れた地域で、その人らしい生活を続けられるように「住まい」「介護」「医療」「予防」「生活支援」に関して、地域が連携を取り包括的に支援する仕組みです。

その中心となるのが地域包括支援センターで、高齢者に関わる問題の総合相談窓口としての役割が期待されています。ここでは要支援と認定された人だけでなく、支援や介護が必要となる可能性が高い人も利用することができます。

総合的な窓口である地域包括支援センターには、
1)主任ケアマネジャー
2)社会福祉士
3)保健師(または看護師)

の3職種を置くことが定められています。

地域包括支援センターでは要支援の利用者様までのケアプランを立てることができますが、要介護レベルになると専門の居宅支援事業所がケアプランを作成することになります。

地域包括支援センターでは、介護度のレベルはそれほど重くない利用者様が多いため、ケアマネジャーが作るケアプランも自ずと異なってきます。介護保険以外の生活支援や地域における情報が要求されることも多くなります。

このように平成26年度の法改正で、同じケアマネジャーの業務と言っても、地域包括支援センターで行うケアマネジャーの仕事と、居宅介護支援事業所で行うケアマネジャーの仕事の分化が進んだと言えます。

・医療と介護の連携:ケアマネと看護


平成26年度の介護保険法改正では、地域包括ケアの中で、貴重な人的資源を無駄にしないため、医療と介護の連携が促進されることとなりました。

ケアマネジャーは、利用者様が地域で自立した生活を送るために、医療や看護とより積極的に連携を取ることが求められます。
もちろん、ケアプランの中で訪問看護を組み入れることも可能です。

ただし、訪問看護と一口に言っても多様です。主治医からの指示書に基づき、カテーテルの交換、点滴、血糖値の管理、創傷処置や経管栄養の実施、点滴や採血などの医療行為から、持病がある場合、その病状の把握や痛み・不快感に対するアドバイス、ターミナルケアも実施します。

リハビリを行う際に関わるのは理学療法士の派遣も訪問看護です。運動機能の回復が主な目的となります。利用者様の健康増進や日常の動作の改善・向上を目指し、同時に家族の負担を軽減する役割も果たします。

医療と介護の連携の中では、ケアマネジャーがケアプランを作成し、そのケアプランに基づき訪問看護のスタッフが活動するのが一般的な流れとなります。

しかし、実際には、医療知識を持つ看護師と、医療知識や経験が乏しい場合もあるケアマネジャーとの間では、ケアマネジャーの方が引け目を感じてしまうことも少なくありません。

業界全体に医療が介護よりも優越しているという認識が強く存在しています。これは給与等の待遇面や制度の成り立ちなどの過去の経緯によるところも大きいです。

確実に言えることは、今後ケアマネジャーにもより深い医療知識が求められるようになるということです。

・認知症に置けるケアマネジャーの役割


平成26年度の介護保険法改正では、認知症ケアにおける対応も大きなポイントとなりました。地域包括支援センターでも、認知症に対する対応が重点的に取り上げられています。

認知症の利用者様は、デイサービスなど他人と関わる場ではしっかりしていることが多いため、外部での変化に気づかれにくいことがあります。しかし、家では認知症の症状が顕著になり、家族が困惑してしまうことが多いのです。

家族からケアマネジャーへの相談で、認知症の発症に気づき、事業所へ報告が多いのはこのような理由からです。

認知症の程度や原因を特定することは、ケアマネジャーの役割ではありません。

しかし、認知症に起因する生活上の支障や危険性を把握し、本人や家族の負担を減らす適切なケアサービスを検討するのは、ケアマネジャーの役割です。

認知症の把握ポイントは、①短期記憶に問題があるか。②日常の判断力が弱く、支援が必要、または判断ができないか。の2点です。

つじつまの合わない話や、夕方にソワソワと落ち着かなくなる、現実にはないものが見える、時間・場所が分からなくなるなどの見当識障害や「せん妄」と呼ばれる症状が見られることもあります。このような場合、速やかに専門医の受診を勧めるべきです。

まず現在の認知症周辺症状に関する医師の診察を受けているかを確認します。受けていなければ専門医への受診の必要性を、利用者様とその家族に説明しましょう。見当識障害だけでなく、せん妄であった場合、適切な処置を行わないと昏睡や死に至ることもあります。

これからの時代に求められるケアマネジャーの役割


このように、地域包括ケアシステムの進展や医療介護連携の強化に伴い、ケアマネジャーに求められる役割は大きく変わりつつあることがわかります。

ケアマネジャーの資格を取得するには最低「5年の実務経験」が必須であり、ケアマネジャーとして活動してからも、5年毎に資格更新の研修が必要となります。

2000年に介護保険が発足した当初、ケアマネジャーの主な業務はケアプランの作成と保険給付でした。

しかし、予想を遥かに超える高齢化の進行、繰り返される介護保険制度の改正、地域包括ケアシステムの推進とともに、医療介護の連携、認知症対応、コロナ危機を経てのBCP対策や海外からの研修生受け入れ、ICTへの対応等、介護保険の導入初期とは比べ物にならないほど業務の範囲は広がり、期待される役割も大きくなっています。

これからも、利用者様への介護の相談窓口として、また、地域における限られた介護リソースの橋渡しとしての役割が期待されるでしょう。

ケアマネジャーの不足が叫ばれていますが、これだけ急激にいろいろなことが変わるとついてゆくのも大変だろうと思います。

最後に:これからのケアマネジャーに求められるもの


医療や介護の業界には、受験資格や要件を必要とする職種が多いため、「一定の要件や資格を満たしていればケアマネジャーとしての仕事ができるのでは?」と思われがちですが、実際は、決してそうではないと思います。

介護保険を持続可能にするため、国の予算に上限を設けざるを得なくなり、市区町村に権限が移譲されています。介護保険外のサービスが増え、ICT化の必要性が急増しています。これは今後も続くでしょう。

つまり既存の「ルールが決まった」領域での業務よりも、「ルールが曖昧な」状況の中で調べたり考えたりしながら業務を進める場面は、これからも増えてゆくのです。

一方、人間の健康寿命を伸ばす医療技術や研究も驚異的な速度で発展しています。

このような背景を考えると、これからのケアマネジャーに求められるものは、現有のスキルや資格よりもむしろ、常に学び続ける姿勢や心構えの方がはるかに重要なのではないでしょうか。

ケアマネジャーは、利用者様の人生の最後の部分での生活の質をどのように保証するかという、非常にやりがいがある、と同時に責任の重い仕事です。

人生の最終段階での生活をどのように過ごしたいか、様々に状況の異なる個人に合わせたタイミングと事情や感情を考慮して、地域の情報も合わせながら「共に考えてくれる」ケアマネジャーのお仕事は、AIでは決して代替えできないでしょう。そんなケアマネジャーが増えてくれたらよいなと思います。

著者プロフィール

上尾 佳子 氏

合同会社ユー・ラボ 代表
WACA上級ウェブ解析士
愛知県出身


バブル期に大手通信企業に入社し、通信システムの法人営業を経験。
1990年代、インターネット検索ビジネスを手がける新規事業部に移り、ポータルサイト運営に関わる。以後20年間一貫して、データを活用したマーケティング支援に携わる。
2011年IoTスタートアップに合流、介護福祉用具カタログをデジタル化するアプリをきっかけに介護業界について知見を深め、2014年独立。
家族の遠隔介護をきっかけに、中小企業へのデータ活用したデジタルマーケティング支援を行うかたわら、介護サービス利用者家族という視点で情報発信を行っている。現在介護関係で2つのサービスを運営中。
介護業界向けカタログアプリ「介護のカタログ」
介護のDX化、ICT化について考えるサイト「介護運営TalkRoom」

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