ケアぽすコラム

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2023年10月10日

ケアマネジャーのお仕事:その実態とお悩み解決法


今回はわかっているようでわかっていない、ケアマネジャーのお仕事とそのお悩みについて、深堀してみたいと思います。

ケアマネジャーはストレスが多い職業とよく言われます。ケアマネジャーの新人さんの悩み、キツイ等の書き込みは、ネットに溢れています。

しかし、何がどうきついのか、どうしてそんな悩みを抱えているのか、というところまでよくわからない方も多いのではないでしょうか。

この記事ではケアマネジャーというお仕事の実態と、そのお悩みについて考えてみたいと思います。

そして、なぜケアマネジャーという仕事にそれほど悩みが多いのか、その悩みを解決するために今すぐできる方法はどのようなものがあるのか、というところについても調べてみました。

「ケアマネジャー」というお仕事


ケアマネジャーは漢字で表記すると「介護支援専門員」です。

介護保険制度に基づき、介護が必要な方や、要介護状態が悪化しないようにケアマネジメントを行う専門職種です。

具体的には、利用者様とそのご家族のニーズや希望をヒアリングし、利用者様に最適なケアプランを作成し、適切なサービスを受けられるように支援します。

また、病院やクリニックなどの医療機関や介護施設との連携や、社会福祉士や看護師との協働も行います。まさに地域連携の要です。

ケアマネジャーとして仕事するには資格取得が必要で、受験には「介護・医療・福祉分野の資格を持ち、5年以上の実務経験」が必要です。この「資格」とは医師、看護師、介護福祉士などの国家資格であることからもケアマネジャーになることがいかに簡単でない事なのかおわかりいただけるでしょう。

受験の合格率の平均も18%とそれなりに低いので、明日から誰でもなれるというお仕事では全くありません。

では、そんな現役のケアマネジャー1人が、何人の利用者様を支援しているのでしょうか。

厚生労働省の『令和2年度介護事業経営実態調査』を元に計算したところ、介護支援専門員(常勤換算)1人当たり実利用者数は、平均「38.9人」という結果になりました。

介護支援専門員(常勤換算)1人当たり実利用者数グラフ
※厚生労働省「令和2年度介護事業経営実態調査結果
第37表居宅介護支援|1施設・事業所当たり収支額,収支等の科目,地域区分別のデータを元に計算して作成



同じ厚生労働省が指定している人員基準では「常勤の介護支援専門員の配置は利用者35人に対して1人を基準とするものであり、利用者の数が35人又はその端数を増すごとに増員することが望ましい」とあるので、望ましい状態とは言えず、余裕がないことが判ります。

そして38.9というこの数字は、実に微妙で、一人当たりの利用者数を介護報酬が減らないギリギリまで増やして担当していることがよくわかります。

ちなみに、それまで「基本報酬の逓減制」の適用基準はケアマネジャー1人あたりの担当件数40件以上でしたが、2021年4月に実施された介護保険制度改修・介護報酬改定で「基本報酬の逓減制」の適用基準がが緩和されました。【要件を満たした場合】においては、ケアマネジャー1人あたりの担当件数が45名以上になると、45名以上の利用者様について基本報酬が低くなるという介護報酬上の仕組みに変わっています。要件とは、事業所の経営の安定化が狙いの制度であるために、業務効率化に向けたICTの活用や事務職員の配置などの定めです。


ケアマネジャーが抱える悩み


現在は多くのケアマネジャーの方が、介護報酬が減らない範囲で、利用者を上限ギリギリまで抱えて頑張っていると考えられます。では具体的にケアマネジャーさんの抱える悩みはどのようなものがあるのでしょうか。

・人間関係

ケアマネジャーさんはその職務上、さまざまな医療機関、行政、サービス機関と連携を図るための関係性の構築を行うと同時に情報収集を行わなくてはなりません。

もちろん、同じ職場の同僚や上司との信頼関係も大切です。

さらに必ず必要な信頼関係の構築の中には、利用者様ご本人だけでなく、同居のご家族、時には遠隔地にいるご家族とも、円滑に連絡をとらなくてはなりません。

職場の上司、同僚との関係や、職場外の関係機関との連絡、調整は他の職業でもあることです。

しかしながら、利用者様ご本人とそのご家族との人間関係の構築、これは結構大変なことであると想像できます。

きちんとお話を伺った上で利用者様ご本人様のことを一生懸命考えて組んだケアプランに対して、サービスを頭ごなしに拒否される利用者様、また、利用者様のご家族からの理不尽な要望や要求がある場合もあります。昨今の情報社会、利用者様のご家族もネットで介護について様々なことを調べてきます。もしもご家族様が要望する内容が、実はご本人様のご希望から大きく外れていてためにならないものであった場合、利用者ご家族を説得するというのも、かなり気苦労のある仕事かとご推察します。

高齢の親の介護という局面になってやっと、これまでの家族間の人間関係が浮き彫りになることも多く、この家族の関係の中に、ケアマネジャーという立場で嫌でも介入せざるを得ないような場面に陥ることもあるでしょう。

サービスを拒否される利用者様や、理不尽なご家族のいる利用者様はお断りできればよさそうですが、医療の世界と同じく、介護の世界では基本的に【サービス提供拒否の禁止】が定められています。

正当な理由なくケアマネジャーが利用者様を拒否することはできません。これはケアマネジャーというお仕事独特のご苦労かもしれません。

ケアマネジャーの仕事がつらいとか、メンタル面でのタフさが重要視されるのもこの辺りの理由かと思います。


・仕事量の多さ

全体的に仕事量が多いということは言えると思います。

1人当たりの担当している利用者の数が約40名で、その人たちのケアプランの作成から訪問まで責任を持って行わなくてはいけません。ケアプラン作成後は、定期的なアセスメントを行い月末になったら全てのケアプランの実施状況のモニタリングが必要です。

これらのケアプランとその実施報告は監査の対象になりますし、利用者様の生きるための拠り所であるサービス提供は絶え間なく行う必要がありますので、書類作りの手を抜くわけにもいきません。利用者様に必要な支援が行き届かなくなった場合の悲惨さは想像に難くありませんし、事業所としても実地指導が入ったときに介護保険報酬の減算になってしまうからです。

全ての利用者様が、常に大変な状況ではないにしろ、一人で約40名ということは小学校の1学級の担任の先生とほぼ同じ状態です。要領よくやれるベテランのケアマネジャーの方ならば、うまくこなせる数かもしれませんが慣れるまでは一切気を抜けないでしょう。

これに加えて研修の負担が重いということは多くの方がご指摘されています。

ケアマネジャーは5年更新制で、法定研修を期限内に受講しないとケアマネジャーとしての資格が失効し、仕事に支障が出ます。

ですので、何とか調整して法定研修を5年以内に受講しなくてはなりませんが、1週間まるまるかけての更新研修は、実務に大きな影響が出るレベルの長さです。

ちなみに、この研修内容は都道府県ごとに異なるのですが、運転免許更新のように簡単に終わる県がある、という話は全く聞いたことがありません。

コロナ禍でリモート研修は一般的になっています。

こういった法定研修についても、リスクや効率性を考えて、リモートになって行っているのかなと思いましたが、なんと、未だに対面のところがほとんどだそうです。

リモート研修イメージ
今の時代、様々な便利なツールがあって、リモートでも工夫をすればワークショップ型の研修も可能だと感じています。特に事務的な研修においては、真っ先に合理化すべきところだと感じますが、なぜリアルで研修をする必要があるのでしょうか。

1週間の研修を終えて戻ってきても、担当している利用者様の数は変わるわけではありません。代わりに入ってくれるケアマネジャーさんがいるような潤沢な環境の事業所は少なく、自分が抜けた期間にあふれた仕事は、全てケアマネジャーご自身が残業して片付けなくてはならないというお話をよく聞きます。

移動の時間も馬鹿になりませんし、ケアマネジャー不足が叫ばれている世の中で、研修のリモート参加について、なぜが認められないのか不思議で仕方がありません。


・仕事の境界が曖昧

ケアマネジャーは、利用者様に対して介護保険サービスが公平に受けられるように、サービスをどのような目的で利用するのかを記載した「ケアプラン(介護サービス計画)」の作成を行います。

ケアマネジャーの仕事は、オーケストラで言えば指揮者の役割にあたります。指揮者が楽器を手に取って演奏しないのと同じく、ケアマネジャーの仕事は、利用する介護サービス事業所と連絡を取り合い、利用者に最適なケアプランを作成し、適切なサービスを受けられるように支援することです。

ここでご注意いただきたいのは、ケアマネジャーの仕事には、本来直接的な介護サービス提供は入っていないということです。

しかし、実態はいささか異なります。

利用者様側から見ると、ケアマネジャーは介護保険サービスの道案内役のような立場で、「介護のことは何でもケアマネジャーさんに聞けば知っている」という印象を持っています。

逆もしかりで、病院やサービス提供者側から見れば、「ちょっとしたことでも、ケアマネジャーさんに聞けば利用者さんのことは何でもわかる」と考えてしまいがちです。

そして、利用者様の置かれている状況は、現実には遠方にしか家族はおらず、近所で頼れる方や親しい方がいない、一人暮らしの高齢者というケースは大変多いわけです。

【ケアマネジャー=利用者との調整役】という訳ですから、本来なら利用者様ご家族や、民生委員がやるべき話でも、周りにやる人がいなければ、ケアマネジャーのところに降りてくるというケースは非常に多いようです。

実際、SNSの書き込みなどを見ますと、
  • 介護保険に関係のない行政手続きまで代行した
  • 破損した家具や家電の買い物に出かけた
  • 病院からの依頼で入院時の荷物を病院に届けた

というのもよくあることらしいのがわかります。これは果たしてケアマネジャーの果たすべき役割なのかと不満に思う方は非常に多いと聞きます。

直接的な介入は入っていないはずのケアマネジャー業務なのに、なぜかヘルパーのような業務をやるはめになる、どこかおかしい、と思う気持ちはとてもよくわかります。

しかし、当然のことながら、全ての利用者様とそのご家族が、理解ある理想的なご家族ばかりではありません。

「調整役」という名の下に、結果的に、ケアマネジャーが行っているグレーなサービスや業務が多くなっているのが実態なのです。

結果的に、仕事の量が増大の一途ということになってしまいます。

仕事の量が多くても、どこまでやればこの仕事が終わるのかという期限や境界線が見えれば働いている人間もその時まで頑張ろうという気が起きます。が、いつまでこの状況が続くのか終わりがないと思ってしまうと、人間やる気が徐々になくなってしまいます。

ケアマネジャーさんがうつになったり、このような状態で仕事を長く続けられるだろうかと不安になったりするのは、このような仕事の境界が非常に曖昧であるというところに起因していることが多いのではないかと思います。


ケアマネジャー自身のお悩み相談


では、ケアマネジャー自身のストレスを解消したりお悩み事を相談したりする相談窓口はあるのでしょうか。

形式的には、「地域包括支援センターがケアマネジャーの悩み事を相談したり解決したりする窓口である」という形になってはいます。

しかし、これは実情に沿っているとは言い難いでしょう。

なぜならば地域包括支援センターは、地域外の居宅介護支援事業所を選択する利用者様がいらっしゃった場合は、その利用者様についてマネジメントを地域外のケアマネジャーに委託するケースがあるからです。

このような利用者様の流れが頻繁に起きている自治体や地域では、地域包括支援センターに相談したとしてもケアマネジャーは実情的かつ実質的なサポートを受けられるということをあまり期待することはできません。

同様に、各市区町村の窓口で建前的には、相談や支援を受けることにはなっていますが、ケアマネジャーが抱えている【個別具体的な事例】に対して、どこまで踏み込んで親身になって回答してくれるかは甚だ疑問です。


・ケアマネジャーさん専用の相談窓口

このような中、以下の4つの都道府県では実情を鑑みて、ケアマネジャー専用の相談窓口を設けていました。※令和5年8月時点での筆者調査


いずれも、介護支援専門員を支援する協会が中心になって実施しているようです。他の市区町村でも設置している可能性はあります。もっと分かりやすい形で気軽に相談できる介護支援専門員向けの駆け込み寺のような相談窓口が増えればよいと思います。

・横のつながりによるお悩み解決

前項で書いてきたケアマネジャーが抱える悩み、人間関係、仕事の量、仕事を取り巻く環境、全て個人の努力で解決できるものではありません。

しかし、このような時にこそ、横のつながり、ネットワークというものが大切です。

それさえあれば、抱えている問題が、自分特有のものか、他の地域、市区町村でも起きていることなのかがわかります。

一般社団法人日本介護支援専門員協会が、ケアマネジャー同士が集まる機会等を設けているところもあります。会員制をとっているところが多く費用が若干かかるかもしれませんが、同じケアマネジャー同士で、業務や人間関係の悩みなどを気軽に相談したり話し合える場があれば心の負担が軽減できるはずです。

地域によって活動状況はかなり異なっているようです。SNS等で情報発信している地域の日本介護支援専門員協会もありますし、有志としてグループを主催しているケアマネジャーもいます。まずはスマホで気軽に主要なSNS(FacebookやInstagram、Tiktok、Clubhouseなど)を覗いてみたり、地域の日本介護支援専門員協会を調べてみたりしましょう。

まとめ:本来難しいお仕事


いかがでしたでしょうか。 改めてケアマネジャーというのは、難しい仕事だと思いました。

利用者様やそのご家族、介護サービス提供者や地域の関係者、病院側にとっては、介護サービスの調整、オーケストラでいえば指揮者にあたり、IT分野では、PMつまりプロジェクトマネージャーに相当します。

調整業務と簡単に一言で言いますが、これは勉強して資格をとればもうできる、というような生易しいものではなく、むしろ調整する相手の仕事や状況を含め、介護を取り巻く環境を良く知らねばできないもので、経験がものをいう世界になるのは当然なのかなと感じます。

IT分野でもPM・プロジェクトマネージャーになるのに、失敗含めて何度か場数を踏まねば一人前になれないように、新人のケアマネジャーは、むしろ多少に失敗は当たり前ぐらいに考えていてちょうどよいレベルの、難易度の高いお仕事に挑戦されているのだと思います。

著者プロフィール

上尾 佳子 氏

合同会社ユー・ラボ 代表
WACA上級ウェブ解析士
愛知県出身


バブル期に大手通信企業に入社し、通信システムの法人営業を経験。
1990年代、インターネット検索ビジネスを手がける新規事業部に移り、ポータルサイト運営に関わる。以後20年間一貫して、データを活用したマーケティング支援に携わる。
2011年IoTスタートアップに合流、介護福祉用具カタログをデジタル化するアプリをきっかけに介護業界について知見を深め、2014年独立。
家族の遠隔介護をきっかけに、中小企業へのデータ活用したデジタルマーケティング支援を行うかたわら、介護サービス利用者家族という視点で情報発信を行っている。現在介護関係で2つのサービスを運営中。
介護業界向けカタログアプリ「介護のカタログ」
介護のDX化、ICT化について考えるサイト「介護運営TalkRoom」

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