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2023年12月25日

令和6年度へ向けて/今、介護報酬審議でケアマネジャーが把握しておくべきもの


令和6年度へ向けて/今、介護報酬審議でケアマネジャーが把握しておくべきもの

2023年12月上旬時点での報酬審議を解説します。

1.介護事業経営実態調査結果の意味

2023年11月10日に介護事業経営実態調査結果が公表された。

第5回コラム資料1

※出典|第231回社会保障審議会介護給付費分科会資料
【資料7】令和5年度介護事業経営実態調査結果の概要(案)[111KB] P2

居宅介護支援事業所の税引き前収支差率は、コロナ補助金と物価対策補助金を含まない場合で 4.9%、含む場合で 5.1%と非常に高い。この結果は、収支差率の高い介護サービスの報酬単位を引き下げて、収支差率の低い介護サービスの報酬単位を引き上げるという介護サービス間の収支の調整に活用されることに繋がる。

以下に示す資料のグラフは、過去における経営実態調査結果を、利用者数別に時系列にまとめたものである。見ての通り、利用者数が少ない小規模事業所ほど赤字である。そして、利用者数が多い規模が大きい事業所ほど収支差率が高くなる。これは、いずれの介護サービスにも言える傾向だ。即ち、同じ事を同じようにやっていても、事業所規模が大きくなるほど手元に残る利益が高くなる。これをスケールメリット、規模の利益と呼ぶ。このグラフに於いて、収支がプラスに転換する分岐点が、利用者数が100人である事が分かる。利用者数が100人と言うことは、ケアマネジャーは三人体制以上である。即ち、特定事業所加算の算定が可能となる。居宅介護支援事業所の報酬体系は特定事業所加算を算定しない限りは、収支がマイナスである。これは、意図的に介護報酬上で仕向けていると言えなくも無い。厚生労働省は、居宅介護支援事業所に独立性を求め、大規模化を推奨している。その意志が、このような報酬体系であり続けているのだろう。

第5回コラム資料2

※小濱介護経営事務所作成

2.居宅介護支援事業所では大規模化が進んでいる

居宅介護支援事業所の収支差率がプラスに転換した理由として考えられるのは、令和3年度介護報酬改定に於いて、基本報酬算定における逓減制が限定付きで緩和されて担当件数が39件から44件となったことである。しかし、その算定率は全体の1割弱という状況で決して高くは無い。更に、居宅介護支援事業所の請求事業所数は年々減少している。しかし、特定事業所加算の算定事業所数が、逆に増加している。

請求事業所数の減少については、居宅介護支援事業所の平均年齢が高いことから、引退による廃業も要因のひとつである。同時に、特定事業所加算を算定するために、小規模事業所が統合されてケアマネジャーが3人以上の事業所に再編成が進んでいることも一因であろう。特定事業所加算Ⅲを算定するだけでも基本報酬が1.3倍に増額される。これも収支差率アップの大きな要因となっていると考えられる。

居宅介護支援事業所は、自然の流れの中で、大規模化が進んでいることになる。

3.居宅介護支援事業所での報酬改定の論点

居宅介護支援事業所は、過去最大の改定となるだろう。

既存の加算の算定要件も大きく変更される見込みだ。
入院時情報連携加算の要件を、「3日以内と7日以内」の情報提供から、「当日と3日以内」に大きく短縮する。通院時情報連携加算の対象に、歯科医師を追加する。ターミナルケアマネジメント加算では、対象となる疾患を限定しないことで算定要件を緩和する

前回の改定で義務化された、前6か月間に作成したケアプランにおける、訪問介護、通所介護、地域密着型通所介護、福祉用具貸与の各サービスの利用割合などの利用者に対する説明義務を努力義務に改める。これによって、運営基準減算の対象から外れる事になる。

特定事業所加算を算定出来ない要件の一つである運営基準減算を、算定出来ない要件から外す。また、毎月のモニタリング訪問については、利用者の同意を得てZOOMなどのWEBツールを活用する場合は、居宅訪問は2月に1回に緩和される。さらに、居宅介護支援事業所への同一建物減算の適用も示されて、該当する事業所の収入ダウンが懸念されている。

4.逓減制の緩和で担当件数を44件に

居宅介護支援最大の変更は、逓減制の緩和だろう。

基本報酬区分Ⅰの担当件数を制限無く、44件までとする。また、ケアプランデータ連係システムを活用している場合は、49件までに緩和される。同様に、予防ケアプランのカウントを、従来の2分の1から3分の1に緩和する。この措置によって、居宅介護支援への処遇改善加算の適用は見送られる。そのため、担当件数を増やして、給与を上げるとの見方も出来るため、業務負担とケアの質の担保が問題視されることとなった。そして、この逓減制の緩和の恩恵を最も受けるのが大規模化した居宅介護支援事業所であると言うことだ。少人数の事業所の場合は、直接に担当件数の増加に繋がる。しかし、複数のケアマネジャーが位置される事業所ほど、ケアマネジャーのスキルや担当利用者の状況によって柔軟な担当件数にすることが出来る。また、事務員なども配置されている場合も多く、事務負担が軽減されている。今回のモニタリング訪問の軽減措置やケアプランデータ連係システムの導入も進んでいるだろう。

今回の報酬改定の方向を見ても、国は居宅介護支援事業所の大規模化を進める方向が加速していると言わざるを得ない状況と言える。

第5回コラム資料3

※出典|第230回社会保障審議会介護給付費分科会資料
【資料5】居宅介護支援・介護予防支援[4.8MB] P53

5.運営基準はパブリックコメントへ

令和6年度介護報酬改定については、2023年12月4日の審議の後、運営基準の変更部分がパブリックコメントに挙げられている。2024年1月3日までの公示の後、決定となる。また、2023年12月8日には、居宅介護支援事業所の介護予防支援事業の許認可についてと、全事業所対象の財務諸表の義務化についての介護保険法施行規則の一部を改正する省令案がパブリックコメントに公示された。確実に新しい時間が近づいている。

6.令和6年度介護報酬の施行時期は6月になるのか

2023年10月11日。
第227回社会保障審議会介護給付費分科会の議題に、介護報酬改定の施行時期が盛り込まれた。診療報酬の施行時期を令和6年(2024年)6月1日施行(薬価改定の施行は令和6年(2024年)4月1日)とすることについては、中医協においてすでに了承されている。

介護報酬についても、診療報酬同様に施行時期を令和6年(2024年)6月1日施行することが提案された。施行時期が6月になる可能性はかなりの確率で高いとみている。施行時期が6月になった場合も、審議や報酬単位の答申のスケジュールは従前通りに行われる。Q&Aなどに若干の遅れはあるだろうが、事業所にとっても、余裕のあるスケジュールは歓迎すべき点も多いと考える。新たな加算算定についても熟考出来るだろう。施行時期を6月とすることは歓迎すべきである。

7.今回は過去最大規模の激震をもたらす改定である

今、令和6年度介護報酬改定審議は大詰めを迎えている。新たなデイサービスと訪問介護の複合型サービスは、今回の創設が見送られている

巷では、新たな6000円相当の処遇改善創設やプラス改定報道もあって、楽観的な見方が多いようだ。しかし、矢継ぎ早に明らかになった改定の論点によって、その楽観ムードが崩壊している。今回の介護報酬改定は激変であり、広範囲に影響し、過去最大規模の激震をもたらす改定である。経営陣は、最大限の危機感を持って挑む必要がある

著者プロフィール

小濱 道博 氏

小濱介護経営事務所 代表
C-SR 一般社団法人介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 顧問


昭和33年8月 札幌市生まれ。
北海学園大学卒業後、札幌市内の会計事務所に17年勤務。2000年に退職後、介護事業コンサルティングを手がけ、全国での介護事業経営セミナーの開催実績は、北海道から沖縄まで平成29年 は297件。延 30000 人以上の介護業者を動員。
全国各地の自治体の介護保険課、各協会、介護労働安定センター、 社会福祉協議会主催等での講師実績も多数。「日経ヘルスケア」「Vision と戦略」にて好評連載中。「シルバー産業新聞」「介護ビジョン」ほか介護経営専門誌などへの寄稿多数。ソリマチ「会計王・介護事業所スタイル」の監修を担当。

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