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2023年4月13日

【新年度初め】
令和5年 介護業界の注目トピック3選


【新年度初め】令和5年 介護業界の注目トピック3選

1.新型複合型サービスの行方

令和6年度の介護保険法改定において、在宅サービスの新しい複合型サービスが12年ぶりに創設されることが注目されている。複合型サービスの詳細は、今年後半の介護報酬改定審議を待つ必要がある。現在、複合型としては、看護小規模多機能型居宅介護があるが、新しいサービスは訪問介護と通所介護の複合型とされている。そのため、小規模多機能型居宅介護からショートステイを除いた形態に近いとされている。現行の小規模多機能型居宅介護には、施設ケアマネジャーが配置されていること、訪問サービス担当者には医療福祉関連の資格が求められないこと、介護報酬が月額定額制であること、そして地域密着型サービスに位置づけられている。これらが、新たな複合型サービスに引き継がれるのかが着眼点となっている。

昨年11月14日の介護保険部会での厚生労働省による複合型サービスの説明において、コロナ禍において通所介護の介護職員が特例として訪問サービスを提供していることが示されており、この際には医療福祉関連の資格は求められてはいない。訪問サービス担当者に医療福祉関連の資格を求めないとした場合、これは大きな制度上の転換となるだろう。令和6年度の介護保険法改定において、在宅サービスの新しい複合型サービスが創設されることになるが、詳細はまだ確定していないこの新サービスが実現した場合、通所介護、訪問介護の各サービスにとって大きな転換期となるかもしれない。その姿は、今年後半の介護報酬改定審議の中で明らかになる。

2.自己負担2割対象者の拡大の行方

令和6年介護保険法改正の中で、自己負担2割の対象となる年間所得金額の引下げが現実味を帯びてきた。その結論は今年の夏までに出される。この結論を半年だけ先送りした措置は異例で、明らかに4月の統一地方選挙への影響を考慮しての措置であろう。国は以前から、介護保険負担金を原則2割とする方針を掲げている。しかしながら、一気に2割負担に移行させることはなく、段階的に拡大していく方針をとっている。また、医療保険においては昨年10月から、年間所得200万以上の後期高齢者に対して自己負担2割が適用されている。今後は、介護保険においても自己負担2割の対象拡大が見込まれており、所得基準は年間所得200万以上となる見込みである。この所得層は、企業年金などを受給している場合が多く、現役時代にある程度の企業に勤務していた場合に該当する可能性が高い。介護保険では後期高齢者という括りがないため、利用者全体の25%、利用者の4人に一人が対象になると考えられる。

医療保険において後期高齢者の自己負担2割が導入されたことにより、すでに介護サービスにもその影響が出始めている。具体的には、病院の窓口で支払う金額が、自己負担が1割から2割となることで、支払う金額が倍増することから、対象となる高齢者たちにとってやり繰りが難しくなっているということである。受給される年金金額が同じままであるため、【やり繰り】に苦慮しているのである。『これまで、買っていた物を買わなくなる。』『これまで、使っていたものを使わなくなる。』そのやり繰りの対象としては、介護保険サービスも例外では無い。コロナ禍による経済的な打撃や、利用者の介護サービスを敢えて使わないという認識の高まりによって、介護サービス業界は苦境に立たされているようだ。特にデイサービス業界は休業を余儀なくされ、利用者数が元に戻らずに経営体力の弱い小規模事業所が倒産するケースも多い。

令和6年からの介護保険における自己負担2割が確定した場合、介護サービス業界に大きな影響を与えるだろう。このような状況下で、業界全体で改善策を模索し、利用者のニーズに合ったサービスを提供することが求められている。介護事業経営者は、この件に対してもっと危機感を持つ必要がある。2割負担の対象となる高齢者による【やり繰り】の対象とならないためには、『支払金額が倍額となっても、使いたいサービス』、『支払金額が倍額となっても、使わなくてはならないサービス』であることが最低限必要だ。

今一度、【自身が営んでいる介護サービスとは何か。】の原点に立ち返らなければならない。経営者は、自分自身を利用者の立ち位置に置き換えて、自分が営んでいる介護サービスを支払金額が倍額になっても使うかを考えて欲しい。そこから、どうすれば良いかを考えることから、解決策が見いだせるはずだ。

3.介護老人保健施設などの多床室料の行方

自己負担2割対象者の拡大ともに、結論が今年の夏まで先送りされた項目に介護老人保健施設などの多床室料の全額自己負担化がある。この論点が実現した場合、確実に長期滞在型の老健の経営を直撃する。

長期滞在型とは、基本報酬で、「その他型」「基本型」を算定する施設である。これらの特養化した、お預かり中心の施設を、令和6年改正が直撃する可能性が高まっている。多床室料が全額自己負担となった場合、特養との月々の利用者負担額の差が大きくなり、老健の長期滞在者は、割安感の増した特養に移動するだろう。老健の介護報酬単価を見たときに、明らかに特別養護老人ホームより高いに関わらず、この長期滞在型の事業運営が維持出来る理由は何か。それは、老健では、多床室に介護保険が適用されているため、特養との実質的な支払金額に格差が少ないことが大きい。

今、特養の待機者が大きく減少し、空床も生じている現状から、特養はその受入が可能で、入所者の移動が起こることが想定される。さらに、特養が要介護1以上の入居を可能とする改正が行われた場合、軽度者であり、特養に入居出来ない事を理由として老健に入居している入所者の移動も想定しなければならない。該当する老健は、早期に長期滞在型から脱却して、基本報酬の最高位である超強化型を目指すべきだ。

著者プロフィール

小濱 道博 氏

小濱介護経営事務所 代表
C-SR 一般社団法人介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 顧問


昭和33年8月 札幌市生まれ。
北海学園大学卒業後、札幌市内の会計事務所に17年勤務。2000年に退職後、介護事業コンサルティングを手がけ、全国での介護事業経営セミナーの開催実績は、北海道から沖縄まで平成29年 は297件。延 30000 人以上の介護業者を動員。
全国各地の自治体の介護保険課、各協会、介護労働安定センター、 社会福祉協議会主催等での講師実績も多数。「日経ヘルスケア」「Vision と戦略」にて好評連載中。「シルバー産業新聞」「介護ビジョン」ほか介護経営専門誌などへの寄稿多数。ソリマチ「会計王・介護事業所スタイル」の監修を担当。

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