第1回【令和5年度】ケアプランデータ連携開始に関する反応と影響予想
1.介護業界とICT
介護保険制度におけるICTの推進は、国の施策として取り組まれている。その理由が、介護業界の慢性的な人材不足である。人材不足については、介護業界というより、日本全体の問題となっている。その根底にあるのが、出生率の低下であり、労働人口の減少である。年代別の人口は逆三角形で表される。年齢が下がるにつれて、世代別の人口が減少する。高齢者は定年などによってリタイアし、学校を卒業して仕事に就く若者は年々、減少する。その結果、日本国内の労働人口は減少の一途をたどっており、改善の見込が無い。それに対して、介護を必要とする高齢者は増加して、2040年には介護職員が69万人不足することが見込まれている。その対策として、外国人研修生や地域の元気な高齢者を活用する介護助手制度等の対策は取られているが、焼け石に水の感が強い。
厚生労働省は3年毎に行われる介護保険制度改正の中で、介護職の業務改善・効率化策として、「介護ロボット」、「見守りセンサー」、「インカム」、「介護記録ソフト」といったICT化の促進を次々に進めてきた。業務の明確化と役割分担の推進として、見守りセンサーを。記録、報告様式の工夫として、介護記録ソフトを。情報共有の工夫として、インカムを促進させている。介護ロボットについては、過去の介護報酬改定において、何度も介護ロボット加算等が検討課題に挙がっているが、未だに実現していない。しかし、今年度に於いては、介護ロボットによる業務効率化についてのモデル事業が実施されるため、介護報酬算定の期待が高まっている。
2.ケアプランデータ連携で変わる世界
令和5年4月から国保連合会のケアプランデータ連携システムがスタートする。ケアマネジャーは、毎月、利用者の提供票をパソコンで作成し、担当事業所に紙で印刷して渡している。担当事業所は、ケアマネジャーから届いた提供票を管理ソフトに入力したりしながら活用する。ひと月が終わったら担当事業所は提供票に実績を記載して担当のケアマネジャーに紙で戻す。結果、ケアマネジャーは、月初に提供票が100枚近く届くことになる。例えば、利用者が30人いて、各利用様に3つの事業所を位置づけていたら90枚の提供票が返ってくるわけだ。この90枚の 提供票を自分の給付管理ソフトに手入力している。この作業だけでも2〜3日かかっているのが現状だ。
連携システムを使う事で、ケアマネジャーはパソコンの画面上で提供票を入力し、入力が終わったらケアプランデータ連携システムを使って担当事業所に電子データとして提供票を送る。担当事業所は届いた電子データを自分の管理ソフトなどに取り込むだけである。ひと月が終わったら担当事業所は、画面上に実績を打ち込み、担当ケアマネジャーに電子データで送る。ケアマネジャーは担当事業者から届いたこの電子データを給付管理ソフトに取り込むだけで作業を終えられる。すなわち、従来の手入力の部分が双方で無くなるのだ。入力ミスでの返戻リスクも無くなる。ケアプランデータ連携システムが導入されることで、今まで3日程度かかっていた提供票の入力作業が、1日もかからないということである。圧倒的に業務は簡素化される。その意味で、期待が大きいICTシステムと言える。
3.過去のシステムと国保連合会システムの違い
データ連携システムはこれまでも存在していたが、居宅介護支援事業所が対応していても、担当事業所が対応していない場合、利用が出来ないという根本的な問題があった。また、双方に導入がされていても、介護ソフトのベンダーが異なる場合、仕様の違いから連携が出来なかった。そのため、厚生労働省は「標準仕様」を公開して、この問題の修正を試みていた。現在、居宅介護支援事業所と担当事業所との間で、ケアプランの控えや提供表などの書類のやり取りは紙ベースで行われている。そのため、多忙なケアマネジャーからのケアプランの控えの提供が遅れたり、提供がされていないなどの問題も発生している。そのため、運営指導等でケアプラン控えの存在が問題となり、返還指導となった担当事業所も少なくない。
先に記したように、圧倒的にケアマネジャーの手間が削減される。そのため、担当事業所も導入を求められ、導入しない場合は、担当事業所を外される可能性も捨てきれない。心配されるセキュリティ対策も、国保連合会のシステムを利用する場合は、毎月の国保連への介護報酬請求で利用している電子証明書を活用する仕組みを取ることでクリアしている。厚生労働省は、この活用によって、紙や移動に伴う時間ロス、交通費等の削減効果が高いとしている。
4.データ連携に必要な業界内の対応業界内の対応
ここで想定される問題は、電子データ化して介護給付管理ソフトに取り込む処理である。LIFEにおける介護記録ソフトの状況を見ても、ソフトのベンダーによって対応のバラツキが想定される。その場合、必ずしも業務の効率化に寄与しないケースも出てくるだろう。LIFEに続き、使用する介護請求ソフトを見極める必要がある。将来を見据えた場合は、費用対効果を考えながら、場合によっては乗り換えも必要になってくるだろう。
在宅サービスの場合はさらに問題が内在する。未だにインターネットを介した伝送請求ではなく、CD-Rなどで介護報酬を国保連合会に提出している事業所も存在する。まだフロッピーディスクで提出する事業所も存在するようだ。この点については、CD-Rに切り替えるように、国保連のホームページに「お願い」が掲載されているくらいだ。このように旧態依然とした事業所の導入は難しいだろう。国保連合会のケアデータプランデータ連携システムは1事業所当たりで年間21,000円の利用料金が発生することを問題視する声も聞く。これは、法人単位ではなく、事業者番号毎に徴収される。事業の拡大策を取る法人に取っては、負担が増していく。また、高齢化が進むケアマネジャーが、どこまで提供票のICT化に対応出来るかを懸念する声も業界内には多い。
5.まとめ
しかし、圧倒的にケアマネジャーの手間が削減されることは間違いないのだ。このシステムの普及は時間の問題であろう。もはや、パソコンが苦手などと言っている時代は終わりを告げた。ICT化を行わない理由を考えるのでは無く、いかにICT化を進めるかを考えるのが経営者の役割となっている。
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001001183.pdf
※文中の2040年における介護職員不足の試算は、厚生労働省が令和3年7月9日に第8期介護保険事業計画の介護サービス見込み量等に基づき、都道府県が推計した介護職員の必要数です。
著者プロフィール
小濱 道博 氏
小濱介護経営事務所 代表
C-SR 一般社団法人介護経営研究会 専務理事
C-MAS 介護事業経営研究会 顧問
昭和33年8月 札幌市生まれ。
北海学園大学卒業後、札幌市内の会計事務所に17年勤務。2000年に退職後、介護事業コンサルティングを手がけ、全国での介護事業経営セミナーの開催実績は、北海道から沖縄まで平成29年 は297件。延 30000 人以上の介護業者を動員。
全国各地の自治体の介護保険課、各協会、介護労働安定センター、 社会福祉協議会主催等での講師実績も多数。「日経ヘルスケア」「Vision と戦略」にて好評連載中。「シルバー産業新聞」「介護ビジョン」ほか介護経営専門誌などへの寄稿多数。ソリマチ「会計王・介護事業所スタイル」の監修を担当。