ケアぽすコラム

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2023年5月11日

介護現場でデジタル化できる領域と利用者様との電子契約における注意点


介護現場のICT化やDX化という話が最近声高に叫ばれています。
しかし、「理屈では判っているけど、デジタル化はなかなか進まない・・・」とお悩みの事業所は多いのではないでしょうか?
「デジタル化=冷たい」というようなイメージが先行しており、介護する側とされる側が直接触れ合う時間が減るのではないか、利用者が安心できる質の高い介護が失われるではないかという懸念を持たれているかも知れません。「デジタル化やIT化など必要はないです。」という周囲の意見に囲まれて、DX化を進めたくても進められないというお悩みをお持ちの管理者の方も多いと思います。

しかし今回は「デジタル化=冷たい」と言う印象を覆すことができれば・・・という思いでこの記事を書きました。介護のDX化によって、むしろ介護の質が上がり、利用者様と時間的余裕をもって触れ合う時間が増える可能性があるということをご説明できればと思います。

この記事では介護施設などの施設系の介護と居宅における在宅型の介護で具体的にどのような業務の分野でデジタル化が進んでいく可能性があるのかについて、事例を交えてご説明をしたいと思います。

「デジタル介護」は冷たい?

2022年2月に公共放送の特別番組でデジタル介護最前線についての特集が組まれました。この中で「デジタル介護」という耳慣れない言葉が登場しました。

介護保険の電子請求というのは昔からありました。しかし令和の時代にあっても引き続きUSBやCD-ROMで介護保険の請求をやりとりしている事業所もあります。介護保険の電子請求さえ、まだ完了できていない状況なのに、介護をデジタル化するというのはどこまでできるのものなのでしょうか。

この特別番組で取り上げられている介護施設では、職員の方がセグウェイに乗って廊下を走り、利用者様の睡眠の質が電子・可視化され、排尿のタイミングをセンサーで検知・予告、介護の記録も全て電子化されています。 デジタル化によって時間の節約ができ、その時間を利用者様との大事な接触時間に充てることができ、サービスが向上している印象を受けます。つまりデジタル化によって介護の質そのものが向上し、利用者様の満足度も上がっている、という内容です。

こういった報告からは、「デジタル介護=冷たくて非人間的」という印象は全く受けません。介護のデジタル化は冷たくて非人間的という印象をはるかに凌駕して、メリットだらけのように見えます。

本当にこの特集で報道された内容ほどのデジタル化が可能なのでしょうか。介護業界の業態別にどのような業務がデジタル化できるのか、具体的に考えてみます。

介護でデジタル化できる領域

「居宅サービス、入居サービス共通」

・コミュニケーション

情報共有を活性化すると、スタッフの間でのコミュニケーションが活発になり、メッセージやチャットなどの仕組みを取り入れると、シフトのずれによる伝達漏れを防ぐことができ、仕事の重複や、無駄な仕事をなくすこともできます。チャットをオープンにすると、グループのメンバー内であればメッセージを誰でも、いつどこからでも見れるようになるので、多くの場合、組織もフラットになり、関係性の向上にもつながります。

退職は人間関係の悪化が要因になることが多いというのは周知の事実です。

コミュニケーションをデジタル化することでやり取りが密になり、特定の人との間でのコミュニケーションのギャップが無くなったり、仕事上での誤解が無くなったりすることによって人間関係のこじれやもつれを減らすことができ、また全体に対する情報共有によってチーム全体の雰囲気や風通しも良くなることで、退職者を減らすことが期待できます。

・勤怠管理

勤怠管理という領域は、どの業界にあってもデジタル化が可能な分野です。正社員や契約社員、派遣、パート、アルバイトなど労働形態は様々で、常勤なのか非常勤なのか、それぞれも様々な雇用形態があり、それは何も介護業界だけではありません。介護業界においては、そこに人員配置基準が関わってきます。提供する介護サービス種別によって配置基準は違ってきますが、どんな資格を持った職員が、月に何時間働いているのかを正確に把握しておかなければなりません。配置基準を下回っている状態が監査などで指摘された場合、罰則が課されたり、最悪の場合、介護事業所の指定の取り消しなどもあり得ます。勤務する人数の多い介護施設ですと、勤務状況を全て紙で把握しておくというのは非常に手間がかかります。まだ電子化されておらずご担当の方が多くの時間を使って勤怠管理を行っているのであれば、是非、デジタル化をご検討ください。

・介護記録

やはり、何と言ってもデジタル化が可能で急がれる業務は介護の記録分野です。ご存知の通り介護の記録というのは単なる帳票入力という問題ではありません。介護業界はその業務の特性から輪番制になっている所も多く、24時間介護を続けるためにシフト制を敷いています。そのため利用者様の状態を常に情報共有することが欠かせず、そのような現場では特にデジタル化は急務です。介護記録のデジタル化は業務管理に相性の大変良い改革で、情報共有にかかる物理的な移動などの時間の節約ができ(一冊のノートを求めて一か所へのスタッフの集合が必要ないという意味です。)、節約できた時間を利用者様との大事な接触時間に有効に充てることができるようになることで、サービスが向上しているという事例はいくつも存在しています。デジタル化した介護記録は確認しやすくなっているので、ケア情報を統合的に確認し判断を迅速化でき、介護の質を向上させた事例も多く確認することができます。

「居宅系サービスおける電子化」

・ケアプランデータ(計画書、提供票等)の連携

居宅型のサービスの場合、ケアプラン、提供票などのケアプランデータのやりとりについて電子化が推進されています。

ケアプランデータのやりとりを電子化することによって、膨大な紙のやりとりを減らすことができ、居宅サービスのペーパーレス化は大きく進んでいきます。

居宅介護支援事業所のケアマネジャーから、サービス提供事業所への計画書、提供票の送付、サービス提供事業所からケアマネジャーへの実績の送付、これらは今も殆どがファックスでやり取りされています。月末月初にケアマネジャーと居宅介護サービス事業所との間でやり取りされる紙の量も膨大です。

このような提供票のやりとりを電子化できれば、居宅介護支援事業所、居宅介護サービス事業所の間でやり取りされるこういった紙を削減することができます。

ケアプランは介護保険請求のための根拠資料でもあるので、やりとりがすべてデジタル化され、正確でさえあれば介護保険請求においても間違いが少なくなり、 返戻も少なくなると予想できます。

このサイトから登録を開始すると無料で利用を開始できる「ケアぽす」は、月末月初の居宅介護支援事業所と居宅サービス提供事業所の間の膨大な紙のやりとりを失くすためのデータ送受信可能な連携システムです。

居宅介護支援事業所と居宅サービス提供事業所間では、介護サービス計画書や提供票を作成・管理するために異なるシステムを使っているケースがほとんどです。

異なる介護ソフト間でもデータ連携(データ出力と読込)が出来るように、厚生労働省は「居宅介護支援事業所と訪問介護などのサービス提供事業所間における情報連携の標準仕様」を定めました。この標準仕様により、やっと異なる介護ソフト間であってもデータ出力と読込ができる環境が整ってきました。

「ケアぽす」では、この標準仕様に基づいたデータであれば、複数の送信先を自動振分し、一括送信・受信が可能です。

送信側・受信側が、厚生労働省の「標準仕様」に対応した介護ソフトを使っていれば、データの出力や取込も可能になり、月末月初の紙のやりとりとそれに伴う複数の作業が簡素化します。

厚生労働省も、居宅介護支援事業所と介護サービス事業所間でのケアプランを送受信するための情報連携基盤(ケアプランデータ連携システム)を構築しており、2023年4月から本稼働を開始しました。公益社団法人国民健康保険中央会が運用します。

利用にあたっては年間21,000円のライセンス料と、これとは別に電子証明書費用が必要です。

※詳細は国民健康保険中央会のホームページにてご確認ください。

ケアプランデータ連携システムを活用すると、厚生労働省のホームページ内資料の試算によると人件費、印刷費、通信費、交通費等など含めると、年間81万6,000円のコスト削減が期待できるとあります。

尚、それに対して「ケアぽす」の利用料金は無料となっております。
なぜ無料なのか?それはシステム開始の目的が理由となっています。「ケアぽす」の目的は、導入の敷居を下げてできるだけ多くの事業所様に使って頂き、介護DXを推進し、業界全体の底上げに貢献したいというものであるからです。

すでに実務でご活用されている事業所様もたくさんいらっしゃいます。
また毎月、「ケアぽす」が実施している無料講習会も、毎回募集定員いっぱいのお申込みがあり、注目度が高いことを実感しています。
ご興味をお持ち頂けましたら、是非無料講習会にお申込みいただき、お気軽にご参加ください。

・在宅サービスのご提供で活きるコミュニケーションツール

在宅サービスの場合、コミュニケーションを図るためのチャットやメッセンジャー等のデジタルツールはより一層重要であると言われています。

例えば訪問介護の場合、サービス提供を行う職員同士が顔を合わせる機会があまりないという事情があると同時に、サービス提供をするスタッフと、サービスを受ける利用者様ご本人、そしてその利用者様のご家族間でのコミュニケーションにも活用することができます。

サービスを受ける利用者様ご本人のご家族から得られる情報というのは、サービスを提供する側にとって重要なものです。

最近ではチャットやメッセンジャー等に、動画や写真を添えて本人の状況を知らせることができるような環境ができてきています。

例えば、利用者様のご家族に、コミュニケーションアプリを活用して利用者様のデイサービスでの状況を伝えたり、 歩行の訓練の様子を動画でお知らせすることによって更なる安心をご提供できます。

動画は分かりやすく、理解度が向上することで満足度にも貢献しますので継続的なデイサービスの利用にもつながり、経営には大きくプラスに働くと思われます。

「施設系:介護施設における電子化」

・排泄サポート

介護度が4もしくは5という介護度が高い入居者の方には特に排泄介助が欠かせないケースが多いですが、「排泄タイミングを予測する」ということは非常に難しいものでした。しかしこれがここ数年のテクノロジーの進化によって変わりつつあります。単に排泄を検知するのみならず、排泄を事前に検知するセンサーも登場しています。健康診断で使われるエコーと同じ仕組みの超音波を活用した、安全性は極めて高いものです。 このようなセンサーを腹部の正しい位置に設置すること等によって、 膀胱に溜まった尿の量を検知したり、排尿のタイミングを事前に推定したりすることができるような仕組みです。

排泄検知のセンサーは施設を運営する側にとっても大きなメリットがあります。 従来はある程度の間隔でトイレの時間を想定して、夜間の入居者様の介助を行っていました。当然ながら部屋を訪れても空振りもあり得るわけで、何度も排泄の介助に行かなくてはなりません。こういった空振りの率を劇的に減らすことができます。

排泄予測が成功すると、このような業務の効率化が期待できる以上に、排尿を自分で出来たということで、入居者様ご本人の自信を取り戻すことができます。排泄は入居者様ご自身の尊厳に関わることで、入居者様ご本人が前向きになれるというQOLに直結する結果をデジタル化でもたらします。

・夜間見守り

入居者様がベッドから下りて転んだり、転落したりしていないか、徘徊で外に出て行ってしまわないか、排泄で問題が起きていないか等、介護施設では、入居者様のお部屋を定期的に巡回する見守り業務は、欠かせないものです。定期的に入居者様の居室を見守る、常態が良くない方の居室はさらに警戒して見守るという業務です。巡回時には入居者様の側が何もなくとも起こされてしまって安眠ができない、また職員側も昼間より職員体制の薄い夜間に多くの入居者を見守らなければならない心理的な負担が大きいなどと言った問題を抱えがちな業務です。この環境に介入し、改善の一助となるものが見守りセンサーと言われる分野のデジタルツールです。見守りセンサーには、様々な種類のものがあります。 暗い室内でもプライバシーを保護しつつ入居者の居室を見守る高画像のカメラ、 マットの下に敷くセンサー類など検知方法によって違いがあります。

これらのセンサー類に共通しているのは、離床などに問題を抱える入居者様がベッドから起き上がったり、ベッドから転倒したり等、問題であると担当職員が感じる行動が起きた場合に、スタッフに即座に通知をするというアラート機能です。

このシステムを導入することにより、夜勤職員が夜間の定期巡回時に、巡回の必要のない入居者様の居室に訪室するというケースを大幅に削減することができます。必要のない夜間巡回がなくなると、入居者様が不必要にお目覚めになることはなく、ぐっすりと眠ることができ、担当職員も安心して業務を遂行できます。デジタル技術の活用によって利用者様の睡眠の質の向上と心理的負担削減効果が期待できるのです。

・入居者様のご家族とのコミュニケーション

コロナ禍において介護施設への訪問が禁止となり、外部とのコミュニケーションが遮断されてしまった時に、これは大きな問題となりました。

感染症対策によって面会禁止となった中で、入居者様と入居者様のご家族の方が会話をできる方法として、大きくクローズアップされたのがビデオ会議というデジタルツールの導入でした。

デジタルツールの導入によって、入居者様とご家族の方間で離れていても会話ができ、認知症の進行の緩和の効果や、入居者様のストレス対策となったという効果もあったそうです。

政府による後押し 介護における電子契約

一部ではありますが、介護現場のDX化、電子化は少しずつ成功事例が出てきています。しかし、まだ介護事業所・介護施設の内部での電子化・DX化が中心です。肝心の介護サービスを受ける利用者様との契約はどのようになっているのでしょうか?

日本の政府は今、デジタル庁を組織化するなど、電子化、ペーパーレス化を強力に推進しています。

介護業界も介護サービスを受ける際に交わす契約について言えば、令和3年度の介護報酬改定によって、介護業務においても電子契約が認められるようになりました。

厚生労働省が2021年1月18日に公布した「令和3年度介護報酬改定の主な事項について」の中の、「介護人材の確保・介護現場の革新」の項目の中で、以下の記載がありました。

・利用者等への説明・同意について、電磁的な対応を原則認める。署名・押印を求めないことが可能であることや代替手段を明示する。

・諸記録の保存・交付等について、電磁的な対応を原則認める。

これにより、居宅介護におけるケアプラン(介護サービス計画書)や重要事項の説明など「利用者等への説明・同意」する際に、契約書類を電子化し、タブレットで持ち運び、口頭で説明し、 印鑑の代わりになる電子署名やタブレット上で電子サインをして本人の同意を確認したり、電子署名された書類を電子媒体のまま保存したり、ということができるようになっています。

ご注意いただきたいのは、介護の DX という中で推進されている電子契約というものは、単なる文書の電子化とは異なるということです。単なる文書の電子化のみですと、本人の同意を証明するものとして結局のところ、PDFを印刷して、署名捺印しなくてはなりません。そして署名捺印された紙の文書を、再び電子化しPDFに戻すという手間だけが発生してしまいます。

紙の上に書かれた署名捺印以外の代替え手段を明示すれば、電子的なものでも本人の同意と認めるというところがこの介護報酬改定で示されているポイントです。

これは介護のデジタル化を進める上で、本人の同意を紙への署名捺印以外でも認めるという事において大きな一歩ではないでしょうか。

※ただし、この電子契約については、自治体によっては独自ルールがある場合がありますので、詳細は市町村にご確認ください。

「介護契約における注意点:電子署名と電子サインの違い」

厚生労働省の文書によれば、署名押印を求めない場合、代替え手段を明示すること、というだけにとどまり具体的な手段については明言されていません。本人が介護計画に同意したと言う同意を取る手段として、代表的な電子署名と電子サインの違いについて何が違うのか見ていきます。

細かい技術的な説明は省きますが、電子署名は認証局という第三者機関が 公開キーという暗号化技術を使って、本人性を証明するというものです。それが、確かに本人による署名であること、署名後に改ざんされていないことを証明するものです。電子署名を使うためには暗号化技術を使った電子署名機能のある電子契約サービスを事前に、契約者双方が導入しておく必要があります。 さらに、契約する当事者双方が署名サービスを使える状態になっていないと、実際に契約に使うことができません。

電子署名サービスは現在クラウドタイプのものが多数出ており、インターネット環境とメールアドレスさえあれば契約できるものがほとんどです。しかし高齢者が契約当事者である介護業界の場合、こういった電子的な署名サービスに慣れている高齢の方は、ほとんどいないと思われます。

では電子サインというものはどうでしょうか。電子サインというのは、最近広く普及しつつあるもので タブレットや専門端末の表面に、タッチペンなどで、自筆で入力・署名するものです。つまり単純に紙の上に署名するのとタブレットの画面の上に署名するのとの違いだけです。そして第三者認証機関を介していません。

電子サインイメージ図

では、このタブレット上の署名は「署名」に該当するのかというのは、実は法律では明確な定義はありません。日本の電子署名法は現在のところ暗号方式を使った電子署名を有効としており、単に画面にサインしただけのものを署名として扱うかどうかというものは争われた裁判や判例が今のところありません。

しかし現実は、法律の先を行っています。判例は出ていない状態ですが、行政の手続きも電子化が進められており、いくつかの自治体では各種の証明書を発行する際に電子サインを活用しており、タブレット上の署名を、通常の紙に書かれた署名と同じに扱うということが実際に行われています。

クレジットカードでの支払い時のサインも同様です。専用の端末上で署名をすればその電子サインも紙の上での署名と同様に扱われ、お金は引き落とされています。

銀行においても、窓口の専用端末に電子サインで署名をすれば、紙の上の署名と同様に扱うという銀行もあります。

ガスや電気等の定期点検などの実施確認を、電子サインに変えてしまった会社もあります。

ですから、社会的に導入が進んで行き、電子サインがより一般的になってくれば、法的な有効性も認められてくると思われます。現実には、公的機関、銀行やクレジットカート決済等に利用されているので、いずれ法律の方が、現実を追認する形で変わってくると思いますが、まだ法律の裏付けはありません。ただし、こういった違いを知った上で電子サインというものを導入していただく必要はあるでしょう。

「介護における電子契約のメリット」

介護事業における電子契約のメリットは、膨大な契約業務の時間や、書類の保管コストを削減することができることです。 一般的に言われることですが、介護サービスを初めて契約する場合、重要事項説明に始まるA4用紙を、1契約者につき10~20枚も準備せねばならず、契約にかかる時間はおよそ2時間と言われています。 電子か電子契約にすることによって、紙を印刷し準備するコストや時間が節約できます。利用者様側にとっても、最初の契約書に始まり、膨大な紙が溜まってゆきますので、PDF などの電子文書で受け取った方が、書類管理上、「紙」を探す手間を省くことができます。

もう一つ電子契約のメリットは、リモートでの対応が可能になるということです。 対面で説明し記名押印をする必要がないため、 リモートで重要事項や契約の内容を説明したりすることが可能です。 本人の同意については双方が電子署名サービスに契約をしてさえいれば、リモートであっても契約は電子的に有効に成立します。コロナ禍で、どうしても遠隔で対応しなければならないという時代に生まれた一つの知恵かもしれません。

介護デジタル化の究極のメリット

これまで、介護業界でデジタル化できる領域は、多数あることをご説明してきました。

利用者様とのご契約においても、本人同意のしかるべき代替え手段を用意さえすれば、契約書は電子化でき、ペーパーレスで保管もできます。

介護のデジタル化というと、このように、人手不足を解決するための効率化や省力化というものばかりが叫ばれていますが、介護のデジタル化の究極のメリットとは何でしょうか。

それは介護の利用者の方へのケアの質向上であり、利用者のQOLの向上ということだと思います。

前章で述べた排尿のセンサーなどというのは典型的な例だと思います。例に挙げたセンサーは介護をする職員の手間を省くツールであると同時に、データによって利用者様の尊厳を尊重できることでQOLを高め、不快感を減らしていくためのものです。見守りセンサーも同様です。収集したデータを分析して適切なタイミングにだけ夜間巡回をすることができれば、利用者様の睡眠の質も上がり、良い睡眠をとれることで日中の生活がよりよくなりQOL は向上していきます。

こういった各種のセンサーによって取得された情報を、日常の記録として継続的に積み重ねていくと「予測」という事ができるようになります。やはりポイントになってくるのは介護記録ソフトでしょう。

一部の介護記録ソフトでは連携が進んでいますが、見守り端末、各種センサーからのデータ、体温計・血圧計からのバイタルデータをダイレクトに介護システムに反映する動きが見られます。

一人の利用者様の食事、生活、睡眠、排便などのデータからバイタルの体温・血圧のデータも含めて一か所に統合し、分析しやすくすることでその利用者様のリスクを予測・予防する、QOLを上げるということが介護のデジタル化の究極の目的であり、本質ではないでしょうか?

このように、介護施設等では、各種のセンサーや画像から得られた情報を、効率的に介護記録システム側で集約でき、日々のケアで活かす仕組みが求められます。

居宅サービスにおいても、ケアプランに沿ったサービスが実際に行われているのかどうか、予測と実績を照らし合わせ、どこかが違うかチェックができるような電子的なプラットフォームがあると理想です。違いが分かれば、利用者様へ提供する予定であったもの、されたケアについて分析しやすくなり、サービス内容が向上することで予防や現状維持に大いに役立つことでしょう。

こういった電子的なプラットフォームというのは、徐々に構築されつつあります。まず第一段階として2021年よりLIFE(科学的介護情報システム)が導入されました。これは、定性的なものが多い介護の世界で、定量的な視点で科学的な介護を推進していくうえでは大きな転換点でした。様々な基準を全国の介護事業所や施設から収集した生のデータで提示することで、個々の介護事業者へ向けて数値でもってケアの向上を図る目的があります。また、厚生労働省が居宅サービスのケアプランにおける標準仕様を定めた結果、データ連携と交換のためのプラットフォームができました。国保連合会が提供するケアプランデータ連携システムを筆頭に、 まずは居宅ケアサービスと 介護事業所間でのデータの標準化と送受信からスタートします。それに先んじて標準化を活かした異なる介護ソフト間でも利用できる民間のデータ連携プラットフォームとしては、「ケアぽす」が既に稼働して話題を集めています。

こういった電子化の動きは今後ますます加速されるでしょう。

よって、データの連携を進めるにあたって最も大切なことは、 どのプラットフォームを中心として利用者様のデータを集約し、ケアに活かしていくかということに尽きると思います。電子化に伴うセキュリティや個人情報保護等の技術的問題は、介護ソフトメーカーが担ってくれる部分があります。またそれに合わせた事業所内のルール決めは前例が既に多く存在するため、周囲の事業者と情報交換を行い、最新の情報を得ることも大切です。

様々な分野での電子化はコロナ禍でより進み、もう流れを止められない所まで来ています。介護業界もその流れを決して避けて通ることはできないでしょう。